混沌の闇に誘われし旅人の手記

うちのこおんりィエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアッハアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!?!??!!?

断ち切る迷い

「久しぶりね」
 抑揚のない冷淡な声が聞こえる。振り向くと、槍を携えた懐かしい幼馴染が立っていた。
「……カノープス!王都まで来ていたの?」
「ええ、久々に王国に戻ったから、ついでに」
 そう言いながら、城下街を見渡すカノープス
「何年経っても、変わらない賑わいね、ここは」
「まあね、冒険者たちは沢山いるから、人の出入りが絶えないし」
「なるほど」
 納得したように頷くと、カノープスは傍らの幼馴染に向き直った。
「けれど、あなたは暫く見ないうちに変わったわね、ミリィ」
「そうかな……?」
「ええ、騎士らしい顔つきになったわ」
 えへへ、と照れ笑うミリィを見ながら、わずかに頬を緩めて嘆息を漏らした。
「でも、鍛錬やお仕事は沢山頑張ってるつもりだしね。あの時とは比べ物にならないと思うよ?」
「ふうん、言うじゃない。なら……」
 そっと、指先で背負った槍の柄に触れるカノープス
「手合わせ願おうかしら。」



「……へへ、緊張するなあ。君と手合わせしたのなんて、いつ以来だろう?」
「あなたが騎士を志した頃だったかしら。まあ、あなたは真面目に取り組む気がなかったみたいで勝負にならなかったけれど」
「あ、あはは……」
 幼い頃のことを思い出し、引きつった笑みのミリィ。「だ、大丈夫!今度はちゃんとやるからさ?」と必死に告げると、カノープスは頷いた。
「ええ、そうしてもらわないと困るもの」
「そうだね。……始めようか!」
「ええ」
 無表情のまま深く踏み込み、元々の射程もあってか、槍の切っ先は既にミリィに届いている。しかし、そんな動きを予知していたように身を返して、体制を整えながら剣を突き出す。
「……ふっ」
 構えたままの槍をそのまま回転させて、刃を弾く。一瞬、驚いた顔のミリィはしかしすぐに笑みをこぼし、「へえ、」と感嘆のような声を漏らした。
 互い、武器を構えたまま向き合う。今度、先に仕掛けるのはミリィ。横に薙ぐように剣先を払ったが、カノープスの槍の柄がその軌道を阻んだ。
「あ……!」
 衝撃で剣が手から滑り落ち、きらきらと輝きながら剣は試合場の地面を跳ねていく。
 今こそチャンスと言わんばかりに、槍を突き出すカノープス
「ぐ……油断大敵っ!」
 咄嗟に左腕の盾で、槍を受け流した。がきん、という金属音で攻撃は阻止され、カノープスはバランスを崩した。その隙にミリィは剣を拾い上げる。そして。
「……勝負あり、かな」
 振り向きかけたカノープスの肩には、刃が触れそうで触れない絶妙な位置で剣が置かれていた。
「……そのようね」
 その言葉に、凛々しい騎士の顔はたちまち少女の笑みに綻んだ。
「えへへ、どうかな。私も成長して……って、カノープス?」
 一方カノープスは、俯いたまま肩を震わせ、表情を見せようとしない。
「……ど、どうしたの?何か……」
「ふふ、……ふふ、っ、あはは……!」
 突然顔を上げた彼女の表情は、幼馴染のミリィでさえも見たことがない満面の笑みだった。
「え、えっ……?」
「はは、ふふ、……あはは、ごめんなさいミリィ、はは……なんだかね、色々と吹っ切れちゃった」
 戸惑った顔のミリィを見て、また吹き出しそうになるカノープス。彼女がこんなに笑うのは、もしかすれば生まれて初めてかもしれない、なんて思って、困惑が抑えきれず顔に出てしまう。
「……私がずっと、あの時から……旅に出ていたのは、あなたのためだったのよ」
 落ち着いた頃、穏やかに語りだすカノープス
「……私の?」
「ええ。失礼なことだけれど、あなたは頼りないし落ち着きがなくて、誰かが支えてあげる必要があって。それが故郷では私の役目だったから、もっと世界を知って、あなたの支えになれる私になろうとした」
「……そう」
「……でも、あなたは変わった。あなたはもう……一人で、歩けるのね」
「ううん」
 首を横に振るミリィ。不思議そうに見つめるカノープスに、ミリィは当然、と言わんばかりに言い放つ。
「私は一人じゃないんだ。頼れる先輩に、物知りな後輩、冷静な同期。沢山の人が私の周りに居てくれるんだよ」
 納得のまま頷くカノープス。「やはり、あなたは変わったわ」と、そう告げて。
「……きっと、君だって一人で歩き続けていたわけじゃないさ。支えて、時に支えられて、そういうものなんでしょう、旅っていうのは」
「……そう。……そうだった。迷っていたのは私だったんだわ」
「えへへ……ねえ、君は私のために強くなる必要は、もうないんだよ?」
 ミリィの言葉に頷き、そして微笑みながら言う。
「これからは、私のために旅をするわ。世界はとても広くて、一生かかっても全て見きれないほど」
 ふたりの間を、やさしい風が吹いていく。
「たくさんのものを見て、知らないことをもっと知りたい。今度はあなたに聞かせるためじゃなく、私の知識欲を満たすためにね」
「……うん。それってとても素敵だね。……あっでも、たまに手紙とかで何があったかとか教えてほしいな。身分上自由気ままな旅とかはあまりできないから……」
「わかってるわ」
 彼女たちはそれぞれの道を行く。分かたれたわけではなく、隣に伸びる、すぐ側にある道を。