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混沌の闇に誘われし旅人の手記

うちのこおんりィエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアッハアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!?!??!!?

旧校舎の幽霊

【企画】桜庭学院高校 SS

 夏だというのにひんやりとした空気に身を震わせ、富士見陽介は外を見ていた。
 彼が立っていたのは、人も寄り付かぬ旧校舎、その入り口の前だった。というのも、突然の土砂降りで、傘も持っていなかった彼が雨宿りにと逃げ込んだのがここだったからであり、できればこんな不気味な場所には近寄りたくはなかったのだが。
 陽介は、スマートフォンの画面を見ながら気だるげに溜息をつく。その画面には、『生徒会の仕事終わったら迎えに行くね(^-^)』『わかった、いつ終わる?』『もう少しかかりそう(T ^ T)』という姉との会話が表示されていた。待ってるよ、と短い返事を書き込んで、電源ボタンを押しポケットにスマートフォンを押し込む。濡れた制服と肌からはじわじわと体温が奪われ、もう一度ぞくりと肩を震わせた。
 余りにも退屈だった。そして、その退屈さは彼の感じる寒さを余計に強くしているような、そんな気がして、何かをしようにもこの土砂降りでは何もできまい。
 …いや。できることが無くはない。
 ちらりと見つめたのは、雨で余計に薄暗くなった旧校舎。鍵はなく、玄関は開け放たれている。
 ふと、陽介の心に好奇心とやらが、ほんの少し芽生えた。少年らしい探究心のようなものが芽生えて、薄暗く不気味な校舎の中へと突き動かそうとする。
 呆気なく彼は自分に負けて、吸い込まれるように旧校舎へと足を踏み入れた。



 窓ガラスは煤けて、外がよく見えない。なるほど日中でも薄暗いわけだ、と1人納得して、埃っぽい校舎内を探索する陽介。
 探索とはいえ特におもしろいものがあるわけでもないのだが。ただ、少し気がかりだったのは、さっき姉と携帯で交わした会話だった。旧校舎で雨宿りをしている、と伝えた時、『旧校舎かー、あそこ幽霊が出るってオカ研が言ってた!(◎_◎;)気をつけてね!』なんてメッセージを送ってきやがったのだ。どうせあの姉のことだから冗談だろうし、陽介自身も幽霊など信じてはいなかったのだが、旧校舎に入ってみれば、それらしいものが出てもおかしくないような不気味さを持っていた。
 かたん。
 急に聞こえた音に、つい身体を強張らせる。
 音が聞こえてきたのは、消えかけた文字で「2-C」と書かれた教室だった。まさか、そんなわけがない。ネズミでも居るんだろう、きっと。無理やり思い込んで、教室の扉を開ける。
 ボロボロになった机や椅子が散らばるように無秩序に配置してあり、踏みしめるたびにきい、と床が軋んで不気味さを煽る。
 …やっぱり、誰もいないじゃないか。当たり前の事実にようやく胸をなで下ろす。しかし、陽介のすぐ後ろ。
 ごそり。何かがうごめくような音がした、ような。いやいや気のせいだろう。なんて思いつつも、背後の棚に彼の意識は集中していた。
 もしかしたら野良猫かなにか、住み着いてるのかも…そんなことを考えつつ、またもや埃っぽくて低い棚の扉に手をかけて、開いた。
「…は?」
 居た。人がいた。低い棚に体操座りで、もっさりとした髪で顔が隠れて見えないが、おそらく驚いているであろう女の子がうずくまっていた。
「…あの、何して…うぁ!?」
「ひえ…!」
 驚きのあまり完全に無防備になっていた。とん、と胸のあたりを思い切り押され、陽介は見事に後ろに倒れこむ。床に頭を打ちつけ、埃が舞い上がり、一瞬呼吸が苦しくなる。
 陽介が噎せているあいだに、彼を突き飛ばした謎の女の子は教室を走って逃げ出していく。
「げほっ、げほ…ちょっ、…待ってよ…!?」
 まだ喉のあたりにぐずぐずした感じがあるが、今はそれどころではない。陽介は急いで起き上がり、女の子を追いかける。女の子は廊下の先へ走って、曲がったところで…小さい悲鳴と、ずべしゃああ、と盛大な音が聞こえた。
 追いついてみると、案の定その子は派手にこけていた。



「…すみません、すみません…」
「やめてくださいよ…その、俺も驚かせてしまって、ええと…こちらこそすみません…」
 どうやらこの女の子、宇崎ゆうかは気が動転していただけのようだった。とはいえ突き飛ばして逃げ出したことを反省しているようで、表情は相変わらず分からないが涙声ですみませんを連呼している。
 普段旧校舎には人が立ち入って来ないため、人と話すのも明るい場所も苦手なゆうかはよく旧校舎に入り浸っている。足音が聞こえてきたので、驚いて棚に潜り込んだがあっさり見つかってしまった。かくれんぼは苦手のようだ。
「そう、いえば…雨、もう止んでるみたい…」
「え?…本当だ。いつの間に…」
「戻り、ましょう。多分、みんなも探してます…」
 確かに雨の音は既になく、玄関を出ると雲の合間からは僅かに光が漏れている。
 と、玄関を出るか出ないかのところで、急に陽介のスマートフォンが震え始めた。見ると、数え切れないほどの通知や不在着信が表示され、訳が分からず呆然とする。
「…なぜか、旧校舎の中は電波が通りにくいの…すごく心配されてる、ね」
 月乃からの大量のメッセージと、ゆうかを交互に見て陽介は溜息をついた。
 ふと。まさか、旧校舎の幽霊の正体は彼女だったのではないだろうか…そんなことを考えながらも口にすることはなく、雨上がりの空の下を歩いていった。



「もー、どれだけ心配したと思って…!」
「ご、ごめんってば!っていうか、まだ終わってなかったの!?」
 生徒会室に行くと、月乃は未だに仕事に追われていた。第一に怒られ、第二にチョップを食らう。相変わらずの姉である。
「でも、旧校舎に電波が通りにくいってなんか怪しいよね…あそこただの木造の校舎だし。やっぱり…居るのかな?」
「ねーちゃんそういう話好きだよね…そうだ、雨止んだし僕もう帰るよ」
「えー!手伝ってよ!」
 今日はいつもより疲れたから、ときっぱり断り、陽介は逃げ出すように生徒会室から離れたのだった。