混沌の闇に誘われし旅人の手記

うちのこおんりィエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアッハアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!?!??!!?

 私の父は、この街の一帯を牛耳るほどの権力者である偉大な人物だとよく聞かされてきた。しかし、忙しいとのことで父に会える時はほとんどなく、退屈になるとすぐ使用人たちを振り回し、遊び相手にとあてがわれた奴隷たちを着せ替え人形にして遊ぶ、とんでもなくわがままで傲慢な小娘に成長した私であった。
 遊び相手の奴隷の1人、目つきの悪く愛想のない、自らの名前さえ名乗らないほどの無口な少年がいた。
 一目見てまず、なんと陰気なやつだと呆れ、そして同時に、主人に媚びへつらう様子も全くない彼の態度に心が躍った。
 この私にこのような態度を取るようなやつは、生まれて初めてだと。
 調教師に預けたほうがいいという言葉など耳に届かず、私はどうにかして彼の感情を引き出そうと躍起になっていた。怒りでも、悲しみでも、なんでもいい、彼の冷めた、虚ろな瞳に色が付くのなら。
 しかしどれだけ手を尽くしても、じろりと何の感情も籠らない瞳でこちらを見ては、また無愛想に目を逸らすだけ。私は彼を構い倒し、彼はまったくの反応を示さない。そんな日々を繰り返していたが、今までのひどく退屈な日々なんかよりもずっとずっと、楽しかった。生まれてからずっと、人を振り回すことしか知らなかったこの私を、この少年は初めて振り回してみせたからなのだろう、と今では思う。
 彼が私の前に現れて、1年を過ぎた頃。相変わらず口ひとつ聞きやしない彼は、少し様子がおかしくなった。咳をよくするようになり、時折苦しそうに胸元や喉を押さえる。もともと無かった食欲が減り、もともと病的に細かった手足がさらに細り、立って歩くことができなくなった。
 最近、街に広がりつつある流行り病らしかった。もともと不健康な者ばかりが罹っている病だったらしく、奴隷たちも半数以上はこの時期に死んでしまった。
 大体は隔離されてしまったが、彼だけは私のお得意のわがままで、私の近くに置くようにした。
 しかし、物が喉を通らないのだ、回復するはずもない。きっと、誰かのために流すのは初めてであろう涙が溢れ出し、しゃくりあげる声が止まらない。
 そんな、彼の最期の夜。彼はついに、最初で最後の言葉を吐いた。
「……はっ、……ひでー顔」
 泣き叫ぶ私をじろりと見て、痩せこけた頬を歪ませて、わずかに、すこし。
……わらっていた。

 成長した私は父と似たような道へ進み、とある無法の街のカジノオーナーとなった。
 たくさんの人間が、私の掌の上で踊る。私に恭しく跪いてみせる。それに全く不満はないし、むしろ嬉しいほどではあるのだが、時折、無性に寂しくなるのは何故なのだろう。

 もしかすれば、彼のような冷たい瞳を欲している、とでもいうのだろうか。

「ミズチ様、面会希望の者が」
「……おお、そうか。すぐに行く」

 そんな瞳を持つ者が、今更現れるとは到底思えないが。