混沌の闇に誘われし旅人の手記

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灼けた村と雨の話

 灼け朽ち、虫の息遣いさえもなく静まり返っていたその小さな村に、今は雨音が響いていた。
 雨の音は、嫌いじゃない。むしろ、屋根や壁を打ち付けて、流れ落ちていく水の音はなかなかに風情があり、落ち着くものである。
 とはいえ、もうこの村には打ち付ける屋根も壁もほとんど残っていない。雨が打ち付けていたのは、血に濡れた私の身体だった。
「……、寒い……」
 冷たい雨は、想像以上に人体の熱を奪う。湿った地面に刃こぼれした剣を打ち捨てて、雨に濡れた冷たい肩に触れる。手の熱が余計に熱く感じて、心地よくさえ思う。
 おそらく、先程斬ったやつで最後なのだろう。この村には私以外の生命はもはや存在していない。木と、人間と、たくさんの物が焼け、焦げ臭い臭いが、死の生臭い臭いがまだ満ちている。けれど、雨に冷やされたせいか、不思議と心は穏やかだった。雨は私にこびりついた血も、罪も、洗い流してくれるんだ。
「……。」
 痛い、のか。そうか。
 冷静さを欠いていれば、自分のことさえ気が回らなくなるものである。
 戦いの中で負った、無数の傷に今更気がつき、それでも、無数の屍と、焼け焦げてもはやなんだったのかさえ分からない黒の塊しかここにはないことを思い出し、歩き出そうとした脚をその場に留めた。
 如何したものか。
 ふと見れば、雨は弱まり、灰色の雲の隙間からは明るく白い光が漏れ出していた。
 優しい光の前に、襲い来る倦怠感、疲労感。私がそのまま眠りに落ちたのは、それから間もないことであった。


「目、覚めた?」
 目を覚ました私が最初に耳にしたのは、淡白な低い男の声だった。
「……」
 相変わらず鈍い痛みはあるが、動くだけで身に障るような傷ではない。おもむろに起き上がって、辺りを見渡す。私のすぐ横に、男はいた。
 最初に受けた男の印象は、清潔感があり、端麗。けれど、直後に沸き上がる疑問。
「……お前は、誰。」
「ショウ。隣村で眠っていた君を拾ってきたのが彼女だ。」
 ショウ、そう名乗った男が向ける視線の先には、 幼い少女が居た。
 いや、よく見れば耳が尖っており、目も人間の少女に比べ不自然に大きい。亜人族の少女は、ぺこりと此方にお辞儀をした。
「びっくりしました。村に入ったらドラゴンさえもいなくて、あなたが一人。」
「……どらごん。」
 抜けていた記憶が、徐々に形成されていく。旅の途中立ち寄った村にドラゴンの群れが来襲し、村を人を、残らず焼き払っていった。そのドラゴンの群れを、私が残らず狩って、そのまま眠りについたのだった。
「ドラゴンが、あの村に来たことは知っている。だが、奴らは」
「私が、殺した」
「……やはりか……」
 眉をひそめ、今一度私を見やるショウ。
「あまり動くな、傷に障るぞ。」
「大丈夫だよ」
 布団から這い出し、寝ていた身体を慣らすべく足早に去る。
「アイツ……」
 呟くとショウは、重く溜息をつく。
「ミオン、あの子のこと、頼んでいいか。」
「は、はいっ、わかりました!」
 二人のやりとりを黙って見ていた亜人、ミオンにそう告げ、ミオンが少女の後を追うのをショウは見ていた。
「……竜狩りの牙、ね」
 その独り言は、誰の耳にも届くことはなかった。