眠りを運ぶもの
頭の後ろに、鈍い痛みを覚えて目を覚ました。
……ここはどこだろう。
夜明け前のまだ暗い空、風も吹かない無音の草原に、自分一人が眠っていた。倒れていたのかもしれない、思い出せない。
俺は、一体。自問する暇もなく、頭を持ち上げる。
傍には膨らんだ袋があるだけで、自分以外に人の気配もなかった。
まだ意識はぼうっと霞みがかったような、けれど頭は覚醒しているような、妙に気味悪い感覚。
けれど、歩き出さなくてはいけない。なにも思い出せないけど、それだけは確信できていた。
大きな袋を掴み、背負う。とても重たくて、思わず呻き声が漏れた。
「……何が入ってんだよ、これは」
けれど、ここで寝てた俺の側にひっそりと寄り添ってくれていた唯一のものだ。なんだか置いて行く気にもなれないし、それに、何か大切なものだったような、そんな気がしていた。
ざく、ざく。
響く足音。
世界にまるで自分一人、つまらない小説のような例えだが、そう思わずにはいられない、それほどの静寂だった。
袋を背に抱えて、ただ歩き続ける、一人の男がそこにいた。